大阪高等裁判所 昭和53年(ネ)1843号 判決 1980年2月29日
第一八四三号事件(以下、甲事件という)控訴人、第一八五三号事件(以下、乙事件という)被控訴人
一審原告
岡本毅一
外八名
右九名訴訟代理人
平田雄一
乙事件控訴人
一審被告
山本恵子
甲事件被控訴人
一審被告
山本興業株式会社
右代表者
山本守純
外三名
右訴訟代理人
坂東宏
外二名
主文
一(一) 原判決主文第二項、第三項を取消す。
(二) 一審被告会社は一審原告らに対し、原判決添付別紙(一)目録記載一の建物(以下、本件建物という)のうち同二の車庫(以下、本件車庫という)につき、神戸地方法務局昭和四〇年一二月二〇日受付第九、一二〇号の所有権保存登記の抹消登記手続をし、かつ本件車庫を明渡し、昭和五〇年五月三一日から右明渡ずみまで一カ月につき原判決添付別紙(三)一覧表請求金額欄中同会社欄記載の各請求金額の割合による金員を支払え。
(三) 一審被告高梨は一審原告らに対し、本件車庫のうち原判決添付別紙(二)図面記載のA部分を明渡し、前同日から右明渡ずみまで前示一覧表請求金額欄中同被告欄記載の各請求金額の割合による金員を支払え。
(四) 一審被告山本孝典は一審原告らに対し、本件車庫のうち前示図面記載のB部分を明渡し、前同日から右明渡ずみまで前示一覧表請求金額欄中同被告欄記載の各請求金額の割合による金員を支払え。
(五) 一審被告山本弘二は一審原告らに対し、本件車庫のうち前示図面記載のC部分を明渡し、前同日から右明渡ずみまで前示一覧表請求金額欄中同被告欄記載の各請求金額の割合による金員を支払え。
二 一審被告山本恵子の控訴を棄却する。
三 訴訟費用は一、二審とも一審被告らの負担とする。
四 この判決は第一項の金員支払部分に限り仮りに執行できる。
事実《省略》
理由
第一原判決の引用<省略>
第二本件車庫の共用部分該当性の判断
一原判決挙示の各証拠に、当審証人石塚時敏の証言を総合すると、次の各事実を認めることができる。
(一) 昭和四〇年一月二五日に一審被告会社が建築完成した本件建物は、通称「岡本マンション」と呼ばれ、鉄筋コンクリート造地下一階地上五階塔屋付の店舗付共同住宅で、建築当時地階には店舗四戸、本件車庫、事務室、階段前のホールがあり、一階ないし四階は住宅各四戸、五階には住宅五戸、六階(屋上)にはペントハウス一戸の区分建物合計二六戸がある。
(二) 本件車庫のある地階の平面図は本判決添付の別紙図面<省略>のとおりである。
(三) 本件車庫の地下にある本件建物全体の用に供するし尿浄化槽と受水槽の清掃のため専門業者が年に一、二回本件車庫に立入る必要があるほか、浄化槽の点検、薬剤(消毒薬)投入のためにも月一回立入る必要があるうえ、排水ポンプ等の故障が生じたときは随時本件車庫内に立入り大掛りな修理をすることが必要で、これらの必要に備えるためにはかなり広い空場所を存置することが必要となる。また、浄化槽の上は空地もしくは空場所としておくことが建築確認の際要求され、マンション等では通常浄化槽の上を車庫にしていることが多い。本件車庫内には右排水ポンプの故障に備えるための予備の手動ポンプが設置されている。
(四) 現在、マンション建築の建築確認申請に当り、駐車場の設置が事実上義務づけられている。
二建物区分所有法の共用部分とは、①「専有部分以外の建物の部分」、②「専有部分に属しない建物の附属物」及び③「規約により共用部分とされた附属の建物」をいうものと規定されている(同法二条四項)。そして、右①の「専有部分以外の建物の部分」を決定するためにはまず「専有部分」を明確にしなければならない。同法二条二項三号は「専有部分」とは区分所有権の目的たる建物の部分をいうと規定し、同法一条は構造上区分された部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用に供することができるものをもつて、区分所有権の目的とすることができる旨規定しているので、この構造上独立した建物の部分が原則として専有部分であつて、共用部分でないということができる。しかし、この専有部分に属するものであつて、形式上は独立した建物部分であつても、数個の専有部分に通ずる廊下又は階段室などと同様に、構造上区分所有者の全員又はその一部の者によつて共同に利用されるように造られているものは、法律上当然の共用部分とされている(同法三条一項)。
そして、前認定の各事実を考え併せると、本件車庫は原判決添付別紙(二)の図面ヘ〜ト部分の自動車出入口にはスチール製シャッターが設けられ、他に人の出入口として、ハ〜ワとカ〜ヨの線上の付近部分に各一個のスール製片開きの防火扉が設置され、他の外壁はコンクリート壁で仕切られ外部と遮断性を有しており、一応建物の構造上独立して建物としての用に供することができるものといい得るから、区分所有権の目的とすることができるといわねばならない。しかしながら、右の人専用の出入口は事務所ないし階段室を通つて全専有部分に通ずるものであり、本件車庫の構造規模からみて自動車の収容可能台数も六台に及び区分所有者数(二六戸)の二割強に当たり、それが一、二台に過ぎない個人用のものとはいえないし、近時における激増した自動車の保有、利用状況、駐停車状況に照らすと、マンション居住者にとつて車庫は必須のものというべく、このような点から考えると本件車庫は区分所有者の需要に応じるため設置されたものといわねばならない。しかも、本件車庫の天床には、本件建物全体の用に供する配線、配管類がはりめぐらされており、その地下には同じく全体の用に供するし尿浄化槽と受水槽が設置されており、車庫の床にはこれに通ずるマンホール三個があり、また排水ポンプ故障の際の予備の手動ポンプが設置されているのであつて、右浄化槽等の点検、清掃、故障修理のため随時専門業者が本件車庫内に立入、作業をなすことが当初から予定され、いわば機械室をかねたような構造になつている。したがつて、本件車庫は建物の全体的設計の上からみて構造上本件建物の専有部分の全所有者によつて共同に利用されるように造られているものと認められる。
第三本件車庫の登記、改造について
一審被告会社は本件車庫につき、同会社の専有部分として主文一(二)記載の所有権保存登記をし、本件車庫の一部を主文一(三)ないし(五)記載のA、B、Cの三部分に区分し、A部分を一審被告高梨に、B部分を一審被告山本孝典に、C部分を一審被告山本弘二にそれぞれ賃貸し、その余の部分を車庫として使用し本件車庫全部を占有していること、及び右一審被告三名がそれぞれ右賃借部分を店舗として使用して占有していることは、右A、B、Cの部分の位置関係を除き、当事者間に争いがなく、その位置関係が原判決添付別紙(二)図面記載のとおりであることは、<証拠>によつてこれを認めることができ、他に右認定を覆えすに足る証拠がない。
第四一審被告らの抗弁についての判断
一権利濫用の抗弁について
一審被告会社、同山本弘二、同山本恵子、一審原告らの本訴請求は、一審被告会社が一審原告らに対し本件建物の敷地の地代の値上げ要求をしたことに対する対抗手段にすぎず権利の濫用であると主張し、一審被告高梨、同山本孝典は同被告らに対する本件訴訟は本件車庫の賃料収益の帰属をめぐる一審被告会社と一審原告らとの間の問題を解決すればその目的を達しうるもので権利の濫用である旨主張し、原審における一審原告貫名一三本人尋問の結果によれば、本件建物の共用部分の使用の要求が本件建物敷地の地代増額要求を受けたことに端を発してなされるにいたつたことが窺われるけれども、これをもつて右一審被告らの抗弁を認めるに足らないし、他に右各抗弁を認めるに足る的確な証拠がない。
二一審被告高梨、同山本孝典は、同被告らが本件車庫のA、B部分をそれぞれ岡本マンション管理組合の理事長であつた一審被告山本恵子から賃借したものであり、かりに同人に賃貸権限がないとしても一審被告高梨、同山本孝典は同人にその権限があつたと信ずるにつき正当な理由がある旨主張するが、本件全証拠によるもこれを認めるに足らない。
三一審被告高梨、同山本孝典は、本件車庫の地下浄化槽は本件建物建築後、昭和五一年一二月二五日神戸市からこれを廃止し下水管に直結すべきことが命ぜられているので本件車庫に共用性がない旨主張するが、一たん建物建築時に共用部分とされたものの変更は共有者全員の合意がなければすることができないものであるから(建物区分所有法一二条)、右主張はそれ自体失当である。<以下、省略>
(下出義明 村上博巳 吉川義春)